アリタリアのやり方
前記事で「帰国が1日遅れた」とお話しましたが、いやいや話せば長いことながら…
と、改めて記す事にしました。
さて、いよいよアテネを離れて日本に帰国、という日のこと。
アテネの空港では、チェックインカウンターで隣に並んだのは、なんとサッカーのギリシャ代表選手達。
「ワールドカップで優勝するより難しい」といわれるUEFAヨーロッパ選手権で、今年見事優勝したチームである。
優勝した彼らが凱旋帰国した時、アテネの空港に飛行機が到着するや、大きなシャンパンファイトで飛行機ごと飛沫を受けながらゆっくりとゲートに向かう姿をTVで見て、この歓迎ぶりに大きな感動を覚えたのだった。その後空港から市内まで半日かかるほど、沿道の人々や車で埋まったのだそう。オリンピック以上の興奮ぶりだった。
あの時の選手達が、今、間近にいるのである。
と、実際興奮して書いたところで、実は下馬評にも上がらなかったギリシャの選手達、私には一人一人の顔と名前が全く一致していなかった。なんとも惜しい、悔やまれる一時であった。
ギリシャの旅もお天気に恵まれ、おまけにこんなサプライズもあって、これで終われば総て良し!であったはずだが、最後にどど~んときてしまいました。それでは本題に入ります。
今回のフライトはミラノ経由のアリタリア航空で繋いだ旅だった。
アテネオリンピックの時にも話題になったが、現在日本からアテネに行く直行便はなく、途中どこかで乗継いで行かなければならない。いろいろな方法があるが、まあ団体の場合はどこ経由になろうと文句は言えない、いやシベリア廻りのヨーロッパ便ならば、大差はない。むしろ乗継時の時間が問題になる。ミラノで乗継時に問題になるのは、むしろ荷物がちゃんと届くかどうかだ。届かない時は、中身の盗難も心配しなければならない。
そんな心配をしながら、いよいよクルー達の搭乗が始まり、もうすぐ私達も…と思った矢先、突然
「AZ733便は到着地ミラノの悪天候により、出発が1時間遅れます」
とのアナウンスが流れた。
乗客たちが搭乗カウンターに群がる。「自分の乗継はどうなるんだ?」「○時までに○○に行かなくちゃいけないんだ」そんな叫び(多分)で溢れている。もちろん私もカウンターに向かった。
「ミラノの空港は現在濃霧と嵐で閉鎖されています。総ての便が離発着できません。総ての便が遅れるのだから、乗継は心配ありません。」
スタッフの説明はこうだった。
私は自分のお客様に説明をして廻った。私達以外にも個人で同じ乗継をして成田まで帰る人たちが、私の説明に聞き耳を立てている。
そんな中で、一人のギリシャ人の男性が突然、「いったいどうなっているのですか?私には訳がわかりません。」と流暢な日本語で話しかけてきた。どうも日本人の奥様と家族3人で日本に向かうところなのだそうだ。
私は同じ様に事情を説明して、待機するようにご案内した。
しかし、アリタリアには過去いろいろな目に遭っている(詳細はまた別の機会に)私は、一抹の不安を覚えていた。カウンタースタッフは「心配ない」とは言いながら、目の前でコンタクトを取ってくれている様子はない。
その内に遅れがどんどん進んで行った。2時間遅れの出発時刻が表示される。ミラノでの乗継時間が1時間半の予定だったから、2時間遅れは少々きついぞ。
私は最新の情報を得ようと、何度もカウンターに足を運んだが、その度に返事は同じだった。しかし途中から、ミラノの空港閉鎖の原因が、濃霧ではなくてレーダーの故障だというのがわかった。
さすがにちょっと心配になった私は、日本のオフィスに連絡を入れてみた。すると
「ミラノ(マルペンサ空港)からはそのような連絡は受けていないですし、成田行AZ786便は予定通りに出発するようですよ。」
との返事が返ってきた。そんなばかな??
一抹の不安は一気に増大。もしかして私達はマジで乗継げないのか?
カウンタースタッフは、私達に気を遣ってくれたのか、こっそり飲物サービス券をくれた。くれたという割には、空港の端から端まで歩いて運ばなければならないほど大変だったのだが…
結局AZ733便は、2時間半遅れの午後2時過ぎに搭乗開始、それからも機内で2時間半待たされてようやく夕方5時に飛び立った。
機内で待機中、再度日本のオフィスに連絡を入れてみたところ、午後10時をまわった日本からの返答は
「皆さんのフライト予約は既に、翌日の同便に変更になっていますよ。」
機内では
「エア・フランスもKLMも何も、総ての便が大幅に遅れていますから、心配しないで下さい。」
と何度もアナウンスを繰り返す中、私は密かに絶望的になっていた。
せっかくここまでお客様を説得し、励ましてきたのが、総て無駄に、総て空虚なものに感じられた。
それでも気を取り直して、「未確認情報ですが」と今後の予想をお客様に説明した。
AZ733便が5時間遅れの夕方6時にミラノ・マルペンサ空港に到着した時には、アリタリアの日本人スタッフが待機しており、日本人乗客に説明を始めた。
「皆様は明日の成田行の便を予約してあります。今夜は『パレスホテル』という高級ホテルをご用意しましたので、そこでゆっくりお休み下さい。」
私のお客様は事前情報が効いて比較的冷静にして下さっていたのが幸いだった。
しかしアリタリア客室乗務員の「Enjoy staying in Milano~」というアナウンスは、なんと皮肉な言葉だろう…
成田行に乗継ぐ乗客達は総て同じバスに乗って、ホテルに向かった。
パレスホテル…以前泊まった事があるような気がするけど、なんだか周囲の風景が変だ…
スーパーを発見したところで、バスはどんどん高い丘に上がっていった。
それは小高い丘のてっぺんにそびえ立つ、まさに豪華なホテルだった。もちろん私が泊まった事があるホテルとは違っていた。
夕食(アリタリアもち)はアルデンテなパスタにビステカ(ステーキ)、そしてジェラート。お客様は「今まで食べた中で一番美味しい!」と食事とワインを楽しんでいた。部屋も「お姫様気分~♪」と声が上がるほどのデラックスな部屋。
しかしTVのニュースでは、『今日、ミラノのリナーテ空港でレーダーが故障』と報じていた。
ん? 私達が利用するのはリナーテ空港ではなくてマルペンサ空港だ。成田行AZ786便が予定通りに飛び立ってしまったのは、こういうことだったのか?
明日は11時ホテル出発、というので、若いお客様達は「ミラノ見物ができる」とばかりに早速地図をもらって調べ始めている。私はフロントで中心部迄の行き方を訊ねた。すると「歩いて20分で中心に行ける」とのこと。でも、中心部でもミラノのどこ?
フロントスタッフは最後にようやくこう付け加えた。
「ミラノじゃなくてVARESEです。」
ヴァレーゼ? ああミラノじゃないのね。どうりで街が全然見えないと思った。
さすがにミラノ見物は諦めざるをえなかった。
翌朝、ゆっくり朝食を楽しむ人たちや、ホテルの周りの散歩する人たちで、束の間の一時を思い思いに楽しんだ。小高い丘にあるホテルなので、上から見下ろす自然の風景が実にいい。遠くに湖も見える。教会の鐘の音が実に素朴に聴こえる。朝まで気づかなかったが、ホテルの前も緑の公園、そしてギリシャ建築風の回廊が続く。
さあいよいよ出発だ。このホテルに宿泊した成田へ向かう乗客達は約40名。よく翌日便に全員乗れたものだ。しかも満席にも拘らず、私が事前にシートリクエストを送っていた通りにアサインしてくれている。通常こういう時は元々の予約客を優先するので、私達の席はバラバラに離れてしまうのは覚悟しなくてはいけない。しかしアリタリアのスタッフは夜遅くまでかかって取組んでくれたようだ。おかげで12時間という長い機中でも、時間を持余すこともない、とくに新婚さんは。
ミラノからダイレクトに成田まで荷物を預けた(乗継がなくなった)おかげで、ロストバゲージも中身の盗難もなく、無事に受取ることができた。
台風22号が迫っている。
札幌へ帰るお客様に、
「予定便よりも早い便に振り替えてもらうよう、できるだけ早く羽田に向かって下さい。」
とご案内して空港を後にした。
午前10時の成田は、まだ雨も風も小康状態を保っていた。その後の台風のもの凄さ、被害の程など、その時は知るよしもなかった。ましてや同日にサッカー日本代表選手達の乗る便が欠航になったことなども…
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