最強の「おひとりさま」
「おひとりさま」続きで、これまで体験した中で最強といえる方をご紹介しましょう。
8年位前に自分のページに綴ったものですが、こちらに再掲します。
今回のお客様は総勢122名、添乗員4名が同行した。ホテルは2ヵ所に分宿、約半数がパリ申込者だが、私は今回ローマだけの担当だ。
122名もいると、いろんな人がいる。
パリで結婚式を挙げるというカップル、結婚式はしないけど、苗字の違うカップルはた~くさん(深くは追及しない!)。耳の不自由な男の子2人組も・・・最初は心配したが、彼等は根っから明るい性格らしく、旅行中積極的に観光や買い物を楽しんでおり、帰国する頃にはガールフレンドがたくさんできていた 。
いつもと違って、今回は若い男の子や女の子がいっぱいいて嬉しい(!?)。もちろん熟年カップルもいる。あるご夫婦は大学教授で、奥様は春にNYのカーネギーホールで歌った、という多趣味、積極的な方だった。
長い飛行時間、隣あった人達と話をすると、とてもいろいろな事が吸収できて有意義だ。
その中に、あ、いたいた!
昨年に続いて参加してくれたお客様だ。
いろんな意味で、昨年の旅行は「印象的な旅行」だったそうな。そりゃそうよね、パリの大ストライキからロンドンまでバスで行き、一晩延泊した、あのハードな旅はとても経験できるものではない。なかなか「うるさ型」のお客様だったが、あのとき私のやり方は間違っていなかった様、私の事を覚えていて、評価して下さった、と担当者から聞いた。
いろいろな方がいた中で、今回「札がついたで賞」を1人差し上げるとしたら、きっと4人の添乗員は間違いなく彼女を選ぶだろう、と断言できるほど印象的な方がいた。一人で小田原から参加した、40過ぎの女性である。
前日の打ち合わせ時に、担当者から「旅館で働いている人なんだけど、その旅館に尋ねたら『もういない』というし、次の旅館に聞いても『もういない』というんだ。まぁ、旅行代金は頂いているのでよろしく」と聞いていた。
そして出発当日、集合時刻が過ぎても現われない。そしててっきりキャンセルだと思い、処理をする間際になって、彼女は現われた。出発時刻の30分前である。(海外旅行の集合時刻は、飛行機の出発の2時間前)
「30分もあるから、まだ間に合うわよね」だって。(そういう問題じゃない!)
彼女は相当なヘビースモーカーらしい。
今回は我々のおかげで機内は満席、(当時まだあった)予備喫煙席もとれない程だった。しかし彼女は
「食事の前に一服しないと、食事が喉を通らないのよ、どうしてくれるのよ」
とだだをこねる。
「どうしてくれるのよ!」というのが彼女の口癖らしい。
多分キャンセル待ちだったのだろう、本来なら予備席でとってあるはずの最後部席に一組の家族が座っていた。彼女は事もあろうに、一服する間そこの人に席を代わってもらっていた。小さな女の子が隣に座っているのに・・・
また彼女は所持金が4,000円しかないという。あとはクレジットカードだけだ。なのに機内で煙草の免税販売を見つけると、早々に1カートン買っていた。
今回もBA(英国航空)利用なので、ロンドンで乗り継ぎ、ローマに渡る。 私達の仕事は、まず彼女のために喫煙席を確保する事から始まったのはいうまでもない。
お決まりの荷物のトラブルを処理し、ローマのホテルに到着したのはやはり午後11時をまわっていた。
彼女は一人部屋ではなく、同じく一人で参加した中年の女性との相部屋だった。彼女担当の添乗員は「もう一人も煙草を吸うし、見たところ思った事ははっきり言うタイプだから、なんとかなるでしょう」と語っていた。
翌朝の午前中は、オプションでバチカン市国観光。彼女は申し込んでいないにも拘わらず、同室の女性と供にやってきた。
「だって今日じゃないと行けないのよ、どうしてくれるのよ!」(???)
まぁ参加を断わる理由はないので、代金を払って参加してもらった。気になる所持金は、「一人部屋→相部屋に変更による返金18,000円」が実はあり、オプション代を差し引いて、彼女に返金した。
彼女は所持金が少ない割には、あちこちでお酒を飲んだり煙草を買ったりしている。乗り継ぎしたロンドンの空港でも何か買って、ポンドが残っていたらしい。
「昨日両替したお金は今日使えないっていうじゃない!今日両替して明日使えなくなったらどうしてくれるのよ!」(???)
ロビーで叫んでいる声が聞こえた。ローマにはしばらく滞在するんだけどな・・・
彼女の奇異な行動は、私達添乗員の中だけで処理し、周囲には隠していたが、やはり次第にわかってしまうものである。同室の女性がやはりギブアップだ。部屋での生活態度も相当なものらしい。その人は次第に同じく一人で参加していた同年代のおじさんと行動を供にするようになった。すると彼女は「私のおじさんを取らないでよ!」と言いだし、ここに奇妙な三角関係が誕生する事となった。
翌日彼女は何人かと連れだってローマ市内に出かけて行った。しかし昼過ぎに一人でタクシーに乗ってホテルに戻ってきた。ところが所持金がないので、金を払わずにタクシーを降りて、さっさと部屋に戻ろうとしたのだ。
日頃悪名高き(?)ローマのタクシーも、さぞ驚いた事だろう。ドライバーは怒って彼女を追いかけてきた。彼女は
「だってお金ないんだもん。ちょっと貸して」
とたまたまその場に居合わせた19歳の男の子にお金を借りて、事なきを得た。かわいそうなのは男の子。後でお金を返してもらおうと、彼女の部屋を訪ねたら、別の人が出てきたという。彼女は嘘の部屋番号を教えていたのだ。どうせすぐにばれる事なのに・・・
彼女の所持金は底をついていた。買い物はクレジットカードで払うので問題はないが、ちょっとした飲み物など、現金の必要な部分は割に多い。彼女は他でも誰かに借金しているらしい。私達はいろいろ考えたあげく、ある店でクレジットカードのキャッシングに成功し(無利子!)、事が大げさにならずに済んだ。がしかし実の所、成田空港に着いても借金が無くならなければ警察へ、とまで考えていた。
彼女は踏み倒すつもりはなかったらしい。現金が手に入った所で、借りた金は全部返していた。
「私日本に帰っても、住む所がないのよ」
旅館に住み込んで働いていた彼女は、住所不定、無職。小さなボストンバック一つで旅行に参加していたが、それが彼女の持ち物全部だった。そんな彼女は帰国後の宿泊場所を探して、部屋から国際電話をかけていたという。 幸か不幸か電話はつながらなかった。
成田に到着していよいよお別れの時、「JRの乗り場はあっちですよ」とご案内したら、「あ、そう」と言ってそのまま去ってしまった。ボストンバックにさしたはだかの歯ブラシが、とても印象的だった。
私達の仕事は、通りすがりの思い出作りのお手伝い。彼女のこれまでの人生や事情など、知る由もないし、また尋ねる理由もない。けれども今日これから彼女はどこへ帰るのだろう?
「私はどこへ行っても、いつも何か起こすのよね」
そんな事を彼女は話していたっけ。
確かにこの6日間というほんのわずかの間だけでも、充分垣間見ることができたが、彼女はそんな自分の性格をちゃんとわかっていたのだ。これまでいくつの場所を渡り歩いてきたのだろう?そんな彼女の巧みな処世術に感心しながらも、相反して同居する孤独を私は強く感じてしまった。このわずかな6日間、彼女の孤独感を少しでも拭いさってあげる事ができただろうか?この旅行を、彼女はわずかでも本当に楽しむことができただろうか?今となってはもう、知ることができない。
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コメント
僕自身は経験ないですが、たしかに一人参加の人って個性が強そうですよね。
poohpapaさんも言っていたけど、端で見ているわれわれでも腹が立つのだから、ほんと添乗員さんはタイヘンだ。
投稿: ピーちゃんの身元引受人 | 2004.12.21 11:29
ピーさん、コメントありがとうございます。
総ての一人参加の方が悪い方ばかりじゃないのですけどね。「一人参加」の方は「まあまあ…」と抑えてくれ助けてくれる人がいない分、孤立してしまう事がありますね。
それに早く気づいて頂けると円満解決できるんですけど…
まあ、添乗員という仕事も「おひとりさま」みたいなモンですから(^_^;)。
(強烈な人、結構います(笑))
投稿: まりあ | 2004.12.21 22:09