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おひとりさまの旅

昨年末こんな記事を書いたものだから、自分にお鉢が回ってきた(笑)。

周りの同僚からは同情され(だからといって誰も代わってくれるわけじゃない)、経験談を語られ、誰もが一様に「もう二度とやりたくないっ!」と最後に結ぶツアーで、私もそれなりに覚悟して出かけた。
ま、一度引き受けたからには、弱音を吐いちゃ女がすたる。「嫌だ嫌だ」と文句言っててもしょうがないからね。

しかし打合せ時の疲労感に加えて、出発前の電話をかけても携帯のスイッチを切られるわ、電話に出た人は「イタリアの現在の最高気温と最低気温は何度か?」なんて、尋問のような質問を受けるわで、憂鬱度はさらに増してきた。
「行きたくない病」が出発前にムクムクと顔を出してしまった。

「おひとり様」はどうして嫌われるのか?
我侭、自分勝手、自分の主張ばかり、文句が多い、皆と一緒の行動を嫌がる、諭してくれる人がいない、とにかく一緒に行ってくれる人がいないほど付き合いにくい。
そんな形容詞のあてはまる人が多い…そう思った私は、成田空港での受付時もなるべくお客様自身のプライバシーを保つため、再集合をせず、自由に過ごせるよう配慮した。
配慮した、というのは、実は私の「逃げ」だったのかもしれない。

そして私の予想に反したスタートとなった。

搭乗開始後、全員の搭乗を確かめて機内に入った途端、キャビンが妙に騒ついているのに気がついた。
しかも自分のお客様のエリアだ。
「えっ、あなたもそうなの? よろしくね~!」
なんと既に自己紹介合戦が始まっていたのだ。
300本を超える添乗の仕事の中で、離陸前に初対面のお客様同志がワイワイやっているのは、ついぞ見た事がなかった。
12時間以上の飛行時間を独りで過ごすのは、さすがに寂しかったのかもしれない。
中には「おひとりさまツアーは何度も行ってる」常連さんもいて、私にいろいろとアドバイスをしてくれた。
「機内では絶対に寝ないの。その方が後でぐっすり眠れるって聞いたから。」
ひぇ~っ、私はそれからが仕事だから、機内ではぐっすり眠りたいのよ…(涙)
結局お話し相手になった私は、殆ど眠れなかった。

今回は殆どの人が「ひとり部屋」を利用していたが、女性3人ほど「相部屋希望」がいらした。
ホテル毎順番にツインとシングルに分れて頂くのだが、早速二泊目から
「私はシングルでいいから
と各々が言い始めた。
「いいから」って、シングル料金払うわけじゃないのに、よくそんなことが言えるなぁ…
仲の良い友達同士だって、何日も枕を共にすると喧嘩が始まる。気心と生活習慣は同じではない。結婚前と結婚後だって大きな違いを発見する。ましてや初対面の人と突然一夜を共にするのは、男女ならともかく、それこそトイレやお風呂、起床時間、部屋の電気を点けるか消すかなどなど、細かい相違がだんだん許せなくなる。許せなくなるし、我慢も限界になる。

一方、傍目からみれば、我々のグループは妙に陽気だ。みんな一緒にいつも盛り上がっているし、笑い声が絶えない。こんなに元気な人たちの集まったツアーも、自分にとっては珍しい。
毎日ゲラゲラ笑いながら旅程を進めて行った。
不思議なほど、皆一緒に旅を楽しんでいる。

しかし次第に明らかになる内情…
それはお客様各々の「密告」だった。
「着いた日の晩、私の隣の人、大きな声でワンワン泣いていましたよ」
また別の人(おそらく泣いた彼女と仲良くなった人)からは
「隣の人に話しかけても無視されたって」
また次第に仲の良い人同士のグループができ、ほぼ同時に「派閥」も生まれてきた。

いよいよ翌日帰国する、というとき。
夕食が付いていなかったのだが、各々「派閥」で出かけていくかと思いきや、殆ど全員が一緒に街に繰り出して行った。こんなにまとまって出かけるのは珍しい。
けれども帰りの機内では、会社が企画した「帰国後の写真交換会」に、誰一人参加を希望する人が無かった。
「この人の隣には座りたくない」
と、席を替わってもらおうとしても断られた、など、表面的には楽しそうに見えるお客様にも関わらず、実は亀裂がどんどん大きくなっていたことがよくわかった。

通常ヨーロッパのコースでは8日間からが多い。しかしこのツアーは7日間。
あと1日長かったら、このグループは完全に崩壊していたに違いない。7日間が限界。
成田で愛想よく別れを告げるお客様を見送りながら、彼らが時折見せる本音に、私はそんなことを確信していた。

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