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PERA PALACE

PAP_0012

「マスター…。」

男は大きく息を吐いた。
男の背中が、心なしか丸く低くなったような気がする。
呼吸をすれば再び大きくなるとは思えない、憔悴感が漂う。

男の指が伸びた瞬間、マスターの手から新しいロックが渡された。
マスターは覚えていたのだ。

いや、この男の何もかも知っていた、ずっと黙って見てきたのだ、という方が正しい。

「何も変わってないな、ここは。」

むしろアンティークとでもいおうか、古びてはいるが、カウンターの艶は増し、却って凛とした光を放っている。
棚に並んだボトルさえ、あのときのままだ。
マスターも、いつもここにいた。

ただ一つ違うのは…
もう一つの光が消えている事。

男の傍にいつも寄り添っていた、あの子。
ちょっとからかったら、プイと口を尖らせて横を向いた。

「ごめんね、怒った?」
「後でチャイおごるから…」

男がそうなだめると、突然ふり向き、
「じゃ、いつおごってくれるの?」
ちょっと小生意気に上目遣いで男を見つめていた。

あれからいくつ時が流れたのだろう…。
マスターの頭もすっかり白くなった。

オリエント急行の終着駅、イスタンブール、シルケジ駅。
この列車を利用する人々の定宿だった「PERA PALACE」。

もちろん、アガサ・クリスティもこのホテルに滞在し「オリエント急行殺人事件」の執筆を続けた。
彼女の部屋が、当時そのままにこのホテルに残されている。
その部屋、今では誰も泊まる事ができない。
けれどもバスルームに至るまで、まるでつい今まで彼女がそこにいたかのように、きれいに磨かれている。

画像はこのホテルのBAR。
きっと彼女がいた時からずっと、このまま時を重ねているに違いない。

モデルとなった背中は、実は今回のツアーの現地ガイドさん。
文中の会話は、彼の口癖をパクらせてもらいました(^_-)-☆。

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