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金沢の夜

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K君と私は、学生時代のキャプテンとマネージャー、そして就職先も同じだった。

と書くと、何か特別な関係だったような思わせぶりな書き方だが、実際は逆。むしろ学生時代は、あまり話をした記憶が無い。そりゃ全く無い訳じゃないけど…。
自分とは別世界の人、という印象が強かったのだ。

彼はワールドユース東京大会の日本代表(という大会があったことすら知らない人が多いと思うけど、同じ大会にマラドーナがアルゼンチン代表として来日していた)、その後Jリーグの前身JFLのチームに所属し、日本代表の経験もある。
そんな派手な経歴や雰囲気、そして就職後はサッカー選手自体が別格に扱われ、言葉を交わすだけで周りから特別な目で見られるような、そんな環境下に置かれたため、余計に遠ざかってしまったのだ。

その彼が就職後わずか3年で、突然職場を去って行った。
まだまだ現役として活躍していた真っ最中の出来事だった。
「石川県の教員採用試験には年齢制限があって、今年が最後のチャンスなんだ。」
私は自分の耳を疑った。
学生時代より高級車を乗り回し、就職後もゴツイ車を駆って、バブリーなイメージそのままだとばかり思っていた人が、そんな地味なことを考えていたなんて…。
結局彼はJリーグでの活躍も期待されながら、一度も舞台に上がることなく、なんと金沢の養護学校の教師となってJリーグの開幕を迎えたのだった。

年賀状程度のつきあいが始まったのは、それからである。
『金沢に来たら会おう』
そんな言葉がいつも添えられていたけど、社交辞令位にしか思っていなかった私。
教員をしながら金沢のチームでプレーを続け、天皇杯本大会に進んだこともあった。
一回戦の相手は古巣のチーム。
TV局がこぞって彼を取材してたっけ。
仕事で金沢に行くことは何度かあったが、まだ別世界という意識が抜け切れず、私はいつも黙って通り過ぎていた。

月日が流れた。
昨年、恩師の退官パーティで久々に顔を合わせ、お互い歳をとったせいか(笑)、あの頃とは違った印象を彼に受けた。角が取れたというか…(お互い?)
「この前金沢に行ったよ。」
「なぁんだ、連絡してくれればいいのに…」
私の思い込みかもしれないが、その時の彼は、本当に残念そうな顔してくれた。

今回北陸の仕事が入り、いつもは山中や山代温泉に泊るのに、今回は市内のホテル泊、しかも夕食がフリーという絶好のタイミングが訪れ、あの時の彼の表情を思い出した私は、思い切って電話してみることにしたのだった。

携帯に私の名前を登録していてくれたらしい。受話器の向こうの声は、すぐに私だとわかっていた。
「あの…奥さんも連れてっていいかな…?」
なんと夫人同伴で会うことになった。
怪しまれないようにするためか?(笑)
奥様とは、あまり話した事はないけど何度か会ったことがある。
無論、無問題だ。

こうして久々にお互い会うことができ、生まれて初めて(!)ゆっくり話をすることができた。

彼が現役で活躍していた頃に試合を観に来ていた長女は、既に大学4年。なんと我々の母校でバレーの選手として活躍している。心配性な父親は時々、大学まで通っているらしい(笑)。
そんなとりとめのない話をしながら、彼の人となりを改めて再認識することができた一時だった。
現役時代には「アントニオ猪木に似ている」という理由で「アントン」と呼ばれていた彼。
しかし、そのゴツイ風貌とは反対に、実は人前で怒ったことが殆ど無い。
なんと夫婦喧嘩さえしたことがない、という。
そういえば、私も彼が怒った姿は見たことがなかった。見かけによらずナイーブだとは思っていたが、これほどまでに穏やかな人だとは思ってもみなかった。
私の先入観も、いい加減なものである(笑)。

日航ホテル下の小粋な居酒屋で食事した時に、彼が妙に少食なことに気がついた。
前述の通り、あのゴツイ身体からは想像もつかなかったのだが、実は十年程前に癌を患ったのだという。幸い発見が早かったので、その後の再発は見られず完治したが、胃を切り取り、焼肉中心だった食生活が、菜食中心にすっかり変わってしまったらしい。
彼が体調を崩したという話は風の便りに聞いていたが、まさか癌だったとは衝撃だった。
誰にも何にも言わないんだもん!

歳月は不思議なほど、お互いの距離を一気に縮めてくれた。
苦しみが多いほど、他人には優しくできる。
30階のバーラウンジは、再会を喜ぶ三人を暖かく包み込むアットホームな空間、ピアノの生演奏を聴きながら、眼下に広がる金沢の夜景に見入ったとき、私はようやく彼のことが理解できた気がした。

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コメント

おはようございます

いいお友達ですね。しんみり沁みてきます。
華やかな世界にいた人は、なかなかに「昔の夢」を捨てきれないものですが、Kさんのような方は尊敬します。きっと、多くの生徒さんから慕われるいい先生になっておられるでしょう(*^^)v

投稿: poohpapa | 2006.05.07 06:26

はい。

居酒屋には教え子が何人かバイトしていて、入れ替わり料理を運んできてくれました(^_^)。

普通は隠れると思うんだけど…(笑)。

投稿: まりあ | 2006.05.07 07:21

素晴らしい!
読ませるなあ。
人生、人それぞれに物語があるのですね。

投稿: つあお | 2006.05.08 00:40

うふっ(*^_^*)
プロに褒められると嬉しいっす☆

投稿: まりあ | 2006.05.08 01:19

まりあちゃん、ごめんなさい。まりあちゃんがこんなに文章が上手だって知らずいました。このブログを長いあいだ読んでいながら、、、。申し訳ない!
心の動きやその情景が眼に浮かびます、、。
とてもいい感じ(笑)!

投稿: 健太 | 2006.05.08 12:24

健太さん、今まで知らなかったのぉ???(笑)

きっと素直な気持ちが書けたんですね。
ま、たまにはこういうこともある、ってことで…

さあ、もうすぐ仕事開始!
(今成田です。)

投稿: まりあ | 2006.05.08 15:51

出遅れた。

娘さんが母校でバレーの選手といったら……
やっぱり背番号4のK選手じゃん。

僕だって南町田で一緒にすき焼き喰った仲だもん。
ま、先方は覚えていないでしょうけど。

そうか。
するてえと、まりあさんの歳は……

タッタッタッ=3=3

投稿: ピーちゃんの身元引受人 | 2006.05.12 16:46

ぴーさん

遅れてやってきた割には、言うわねぇー(-"-#)。

投稿: まりあ | 2006.05.15 18:20

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